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◆第一章 植民地朝鮮の虚像と実像 日本に来てから知ったこと 私は日本に来て二年ほど経ったころから、異文化ギャップに深刻に悩むことになった。そこで、私は何事もおおざっぱに理解してすますのではなく、具体的な物事に対して、固別に一つひとつできる限り実際的に向き合っていくことを心がけた。 ひとまず私は、韓国的な習慣や価値観をカッコに入れて、できる限り先入観なしに個々の具体的な場面での日本人のものの考え方や価値観などを知っていこうとした。そうしたやり方で日本理解は大きく進んだが、こと日本による朝鮮統治の歴史については、そう簡単にはいかなかった。 それまでに私は多くの日本人から、戦争責任を強く感じているという趣旨の発言、韓国や台湾を支配してきた歴史を深く反省しているといった趣旨の言葉をたびたび聞かされていた。その言葉にはじめて接したときは、大きなショックだった。なぜならば、韓国では日本人は戦前のことをまったく反省していない、と教えられてきたからである。 だから、当初はそういう日本人の言葉は額面通りには信じられなかった。非難されることを避けるため、そんな言葉でごまかそうとしているのだと思っていた。 しかし、会う日本人のほとんどが、私の方でとくに何かを言っているのではなくても、「我々日本人は、戦前は韓国の方々に大変なご迷惑をおかけした」ということを述べるのである。中には、韓国人なみの日帝批判を展開してみせる日本人も少なくなかった。 それで私は、一時はいい気分になっていたのだが、韓国人の私をことさらに意識して、一種の国際的な儀礼でもあるかのように、気に障ることを極力言わないように自らを戒めているとみてとれる人が多いということに気が付いた。 これではほんとうの議論にはならず、この問題について日本人の中にどんな考えがあるのか、それがなかなかわがらなかった。 私はやがて、韓国人にも遠慮会釈なく戦前の話をぶつけてくる人々との出会いをもつことになった。それは、私が韓国語を教えるアルバイトをするようになって出会った「韓国勉強会」のメンバーたちである。彼らはいずれも韓国と深いかかわりをもち、韓国の政治、経済、社会、文化、歴史などにそれぞれ一家言をもつ日本人ビジネスマン、弁護士、弁理士たちであった。 彼らとは「日帝問題」について盛んに議論をした。彼らは私が韓国人だからといって遠慮をすることがなかった。それでいて冷静に、具体的に、理路整然と話をすすめる。それに対して私も冷静に話そうとするのだが、いつしか興奮してしまい、つい大声を出して韓国人お決まりの「日帝批判」を型通りしてしまったことも何回かあった。 かと言って彼らは、別に日本統治正当化論を展開したわけではない。「日本が悪かった」と認めるところも多々あった。が、それよりも何よりも、彼らは論題にかかわる歴史的事実、世界の動向、日韓事情などについて、それこそ隅から隅までよく知っているのである。とくに韓国の歴史となると韓国人の私より数段詳しく、当時の日韓をめぐる国際情勢となると、もはや私は教師の講義を聞きながら必死になってノートをとる学生に等しかった。 私は彼らによって、自分があまりにも日本統治時代に生起した歴史事実を知らないことを思い知らされた。結局のところ、私の方にあったのは、帝国主義者とその犠牲者、侵略者と被侵略者、植民地支配をした者とされた者、加害者と被害者、道徳的な悪と善、といった抽象的な枠組みだけだった。具体的な事実にしても、世界史的なレペルでの議論についても、そのほとんどが私の知識の外にあったと言ってよい。 |