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◆第一章 植民地朝鮮の虚像と実像 戦後韓国の反日民族主義 韓国人が反日的な理由として主にあげられるのは、一つには日本の支配を受けた傷が癒えていないからだとするもの、もう一つは戦後韓国で徹底した反日教育をやったせいだとするもの、この二つが一般的なものだろう。いずれにしても、日本による支配に現代韓国大の反日意識・反日感情の根拠を求める考え方だと思う。 もし、日本による韓国の併合がなく、韓国が日本のように一個の独立した近代民族国家として戦前の歴史を歩むことができていたとしたら、今日のような激しい反日意識の噴出をみることはなかったかもしれない。 また、戦後の韓国政府が、人々を民族として組織するために反日を国是として掲げ、反日意識を植えつけることを目的として反日教育を行なうことがなかったとしたら、やはり今日ほど根強い反日意識はみられなかっただろう。 しかし戦後韓国の反日政策は、単に日本による支配という「屈辱」を受けたためだとか、それに対する「反発心」からとられたものではない。戦後韓国の政府は、日本による朝鮮統治を、日本民族に固有な歴史的性格に由来する特異な「反韓民族的犯罪」と断罪することによって、人々を「反日民族主義」へと組織したのである。つまり反日の根拠をなすものは、日本が韓国を併合したことそれ自体なのではない。そうした事態を招いた日本人の「侵略的かつ野蛮な民族的資質」にあり、日本人の中からそのような資質が完全に消えてなくなるまで、反日闘争を展開していかなくてはならない、というものである。それは韓国政府が民族の歴史を正当化し、民族を統一していくための方策であった。 ここがわからないと、戦後七十年が過ぎてなお反日意識が強固なものとしてある理由がわからない。また、日本人はいまだに反省していないとか謝罪が足りないとか、竹島問題や従軍慰安婦問題にからんで、日本はいまなお「軍国主義復活」しようとしているなどの発言が出てくる理由もわからないだろう。 たとえば、一九九〇～一九九三年に日韓両国の研究者・教科書執筆者の合同で行なわれた「日韓合同歴史教科書研究会」（日本側世話人代表・藤沢法暎氏）で韓国側か提起した主な問題は次の三点である。 ①明治初期の「征韓論」は古代以来の神功皇后、任那日本府、壬辰倭乱（豊臣秀吉による文禄・慶長の役）と続く、歴史的に根深い朝鮮劣等視・蔑視の背景をもっている。 ②日本の「十五年戦争」というとらえ方は中国・アメリカ中心史観であり、韓国植民地支配を軽視するものである。韓国は少なくとも、日清・日露戦争以来「五十年戦争」を日本と戦ったのである。そのように「日韓の戦争」を位置づけるべきであり、「戦争責任」も「植民地支配責任」というべきである。 ③日本では「日本は朝鮮の文明を開化させるために朝鮮を併合した」「日本は韓国の主権を守護して、その自主的近代化を助けたことで貢献した」など、植民地史観、皇国史観がいまだに清算されないまま残っている。（君島和彦著『教科書の思想 － 日本と韓国の近現代史』すずさわ書店） 韓国の研究者は、日本の教科書の記述の背後には、朝鮮・韓国への差別意識を醸成したり、植民地支配を肯定する思想があると言う。そして「国際情勢へ責任を転嫁するな」と主張し、「日本による朝鮮統治」を当時の国際関係と切り離し、「加害者日帝対被害者韓国」という純民族的な枠組みに問題を閉じ込めたがるのである。 右の①の「征韓論」をもう少し詳しく整理してみると、韓国側の研究者の考えは次のようなものだ。 ・日本には古代以来の根深い征韓論がある。 ・それは、豊臣秀吉の侵略前後に、学者たちによって朝鮮劣等論・蔑視論へと集約されて幕末の韓国征伐論となった。 ・明治初期の征韓論はそれを受けたものである。 ・征韓論は現在の日韓関係にまで延長している。 戦後、韓国の李承晩政権にとっては、韓民族の独立国家を作るために、日本による支配を受けたと言う「屈辱の歴史」を精神的に清算し、「民族の誇り」を回復する政策がぜひとも必要だった。李承晩にとってそれは、日本民族に対する韓民族の優位性を回復することに他ならなかった。 韓国には、伝統的に、韓民族の日本民族に対する優位性の主張ともなる華夷思想がある。それは、日本人を文化程度の低い侵略的で野蛮な、中華文明周辺の夷族とみなす、非中華文明諸民族蔑視の思想である。この意識は戦後も伝統的な知識人やかつての支配階級の間に残存していた。李承晩は、日本統治時代の実態を無視して、それを国民に共通の「屈辱の歴史」と主張することでこの伝統思想を目覚めさせ、現代の華夷思想として再構成することに成功した。それが、戦後韓国の反日思想の実態である。 韓国の反日思想とは、「日本人には歴史的に根深い朝鮮劣等論・蔑視論がある」という自らの主張と表裏一体の、民族のアイデンティティを保つための「日本侮蔑論」ともいうべきものとなっているのである。 |